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裏本編 / 雨の日の郵便屋 編
無難な物語
ソウマがAIで無難化しかけた原稿に、ミラが芯を戻す。
Story Focus
AIや便利な整理で、物語の読みにくさではなく作者の芯まで消していないか。
- この話の気づき
- AIに渡すべきなのは作者の芯そのものではなく、芯を守るための整理条件である
- 最後の選択
- 『この変さは残してください』と条件を書き、ファイル名を変える
- 次の問い
- 守った変さを、次にどう推敲するのか
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この話とつながる記事
ソウマがAIに入力したプロンプトは、短かった。
「変じゃない話にしてください。」
送信してから、胸の奥が少しざらついた。
返ってきた案は、よく整っていた。雨の日に手紙を届ける郵便屋が、迷子の子どもを助ける話。分かりやすい目的。優しい結末。誰かに笑われるような変なところは、ほとんどない。
濡れると消える手紙も。
雨の日だけ配達しない郵便屋も。
棚の奥で重くなる記憶も。
全部、きれいに消えていた。
「これなら、読みやすいよな」
ソウマは画面をミラに見せた。
ミラはいつものようにすぐ改善案を出さなかった。タブレットを受け取り、画面とソウマの顔を交互に見る。
「読みやすい。でも、ソウマの話じゃなくなってる」
「読者に伝わらなかったら意味ないだろ」
「伝えるために整えるのと、怖いところを消すのは違うよ」
その違いは分かる。分かるから、聞きたくなかった。
アキトが赤ペンを回しながら言った。
「笑われない話を作るのは簡単だ。何も引っかからない話にすればいい」
「それ、面白くないってこと?」
「面白くないというより、誰の痛みでもない」
ソウマは画面を見た。
AIの案の中で、郵便屋は迷わない。手紙は消えない。雨はただの背景で、最後には都合よく晴れる。
確かに、傷つかない。
でも、あの教室で止まった手も、言い返せなかった悔しさも、古いノートを机に置き直した夜も、どこにも入っていなかった。
ミラが新しいメモ欄を開く。
「AIに頼むなら、こう聞いてみて」
画面には、短い文が打たれている。
「この物語の変な部分を消さずに、読者が追いやすくなる整理案をください。」
「変な部分を消さずに」
ソウマはその言葉を読み上げた。
ミラはうなずく。
「そこが芯なら、守る条件として渡す。AIに任せるのは、芯を消すことじゃなくて、芯までの道を見えやすくすること」
ソウマは最初のプロンプトを削除した。
かわりに、古い一文を貼りつける。
「雨の日だけ、郵便屋は配達しない。」
その下に、条件を足した。
「この変さは残してください。」
送信ボタンを押す前に、ファイル名を変えた。
「safe_draft」ではなく、
「unsafe_draft_01」
アキトが眉を上げる。
「わざとか」
「笑われるかもしれないところから逃げない、って意味で」
ミラが小さく笑った。
AIの返答は、まだ来ない。
それでもソウマは、今度の待ち時間を少しだけ怖くないと思った。
読後メモ
AIは、作者の怖さを消す方向にも、芯を守る方向にも使えます。大事なのは「何を残したいか」を条件として渡すことです。
無難さは悪ではありません。ただ、物語の痛みまで消してしまうと、主人公が変わる場所も一緒に消えてしまいます。読みやすくすることと、笑われそうな部分をなかったことにすることは別の作業です。
AIに頼む前に、まず「これは消さない」と決める条件を一つ書いてください。変な設定、言いにくい感情、主人公の弱い行動。そこを守ったまま、順番や説明量や視点を整えると、便利さが作者の敵になりにくくなります。
次の話では、守った変さをどう直すかが問題になります。怖さを残した原稿には、今度はアキトの赤い線が入ります。
この話の気づき
AIに渡すべきなのは作者の芯そのものではなく、芯を守るための整理条件である次の問い: 守った変さを、次にどう推敲するのか読み終えたら記録できます。次に読むおすすめが未読の話へ移ります。
AIに渡す前の条件
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