キャラクターストーリー / 締切まで五十八分

提出前夜

本文は完成していた。規定も確認した。 送信を止めていたのは、あらすじ欄の最後にソウマ自身が書いた「まあ、変な話です」という一文だった。

読み始める

1 五十八分

応募フォームは、ただ白かった。

タイトル。作者名。本文ファイル。あらすじ。確認事項。

締切まで五十八分。

「誤字、もう一回見る」

ソウマが言う。

アキトはチェック表を示した。

「三回見た。規定、文字数、形式も問題ない」

「問題ないって言われると怖い」

「問題はない。怖さはある」

ソウマは本文を開き、読点を一つ動かした。次に戻した。

直し続ければ、送らない理由を作品の未完成へ預けられる。

ミラが時計を伏せた。

「本文じゃなく、空欄を見よう」

作者名がまだ空いていた。


2 自虐のあらすじ

あらすじ欄には、こうある。

雨の日だけ配達しない変わった郵便屋が、一通だけ届けます。まあ、変な話です。

「最後、いる?」

コトハが聞いた。

「先に言っておけば、読む人が変だと思っても」

「誰の判断ですか」

ソウマは止まった。

読む前の選考者へ、自分で笑い方まで渡している。

前にコトハが怒ったのは、まだ先の話だ。この夜のソウマは、自分を守るため作品へ小さな傷をつける癖に、まだ名前をつけていなかった。

最後の一文を消す。

雨の日だけ配達しない郵便屋が、今夜町を出る人へ一通だけ手紙を届けます。

事実だけになった。少し怖い。


3 作者名

「受賞したいですか」

コトハが聞いた。

「したい」

正直に言うと恥ずかしかった。

「でも、それを今夜の目的にすると押せない」

「では、今夜の目的は?」

「出すこと」

ミラが付箋へ書く。

今日の目的: 出す。
結果: 後日の課題。

作者名欄へカーソルが点滅する。

ペンネームでもいい。それでも、ソウマは自分の名を入力した。

誰が届ける物語かを、空欄にしないためだった。

残り十三分。


4 自分で押す

本文ファイルを選ぶ。

雨の日の郵便屋.pdf。

手が震えた。

「押していい?」

誰へ聞いたのか分からない。

コトハは「はい」と言いかけ、口を閉じた。

「決めるのはソウマさんです」

ミラも端末へ手を伸ばさない。アキトは短く言う。

「確認は終わってる」

ソウマは送信ボタンを押した。

画面が切り替わる。

応募を受け付けました。

花火も祝福音もない。世界は変わらない。

十二桁の受付番号が表示される。

ソウマはスクリーンショットを一枚だけ保存し、結果ページを閉じた。

今夜の目的は、ここで終わってよかった。

5 送信後の原稿

送信から十分後、ソウマは誤字を一つ見つけた。

応募サイトは差し替え不可。喉の奥が冷たくなる。ミラは修正方法を検索しかけ、アキトは締切要項を開いた。

「待って」

ソウマが二人を止める。

誤字は人名でも結末でもない。橋の「欄干」が「欄間」になっている。恥ずかしい。だが、受付を取り消して出し直せば締切に間に合わない。

創作ノートへ一行だけ残す。

受付版には誤字一。手元版は明日直す。

今夜の目的は、完全な原稿を世界へ固定することではなかった。締切までに、自分で選んだ版を出すことだった。

ソウマは応募完了メールを閉じ、手元のファイルも触らずに保存する。誤字は明日の仕事へ渡した。

送信ボタンを押した勇気を、送信後の慌て方で取り消さないことも、提出の一部だった。

翌朝、手元版の誤字だけを直し、ファイル名へafter-submissionと足した。受付版と混ぜないためだ。提出した過去をきれいに塗り替えず、次に使う版だけ前へ進めた。

この話で起きたこと

本文と規定確認は済んでいました。ソウマは自虐的なあらすじを事実へ直し、作者名と送信を自分で選びました。受賞は今夜の完了条件にしていません。

創作に戻すなら

提出前に、確認できることと後で決まることを分けます。規定・形式・同意が足りなければ確認を終えることを到達点にし、揃っている場合だけ送信を終点にします。

一行ワーク

「今日選べること」と「後で決まること」を一行ずつ書いてください。

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結果ではなく、今夜どこまでを自分の完了にしますか。

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