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キャラクターストーリー / 名前のない一覧
雨の日の落選通知
結果発表の日は雨だった。 受賞一覧には「落選」とさえ書かれない。ただ、ソウマの作品名だけがどこにもなかった。
読み始める1 ない
「確認する?」
ミラが結果ページを開いた。
受賞作。佳作。選外への個別通知はなし。
一覧に『雨の日の郵便屋』はない。
「ありません」
ミラは事実だけを言った。
ソウマは画面を見たまま笑おうとした。
「まあ、そうだよな。初投稿だし。変な話だし。いい経験」
声が軽すぎた。
アキトが聞く。
「悔しくないのか」
「平気」
返事は早かった。早すぎて、自分でも嘘だと分かった。
2 席を離れる
「悔しいに決まってるだろ」
声が大きくなった。
「何がだめだったか分からないし、出さなきゃよかったって今は思う。でも出さなかったら逃げたって思う。どっちも嫌だ」
雨の音が強くなる。
コトハがティッシュへ手を伸ばし、途中で止めた。
ミラは分析画面を閉じた。
アキトも「次を書け」とは言わなかった。
ソウマは椅子を引き、部屋を出た。
誰も追わなかった。
階段の踊り場で、雨に濡れた窓を見た。世界の演出が雑だと思った。雨の話を書いた人間へ、雨の日に落選を返す必要はない。
それでも雨は、物語の都合で降っているわけではなかった。
3 くやしい
戻ると、結果ページはまだ開いていた。
受付番号の付箋も残っている。
受賞の証明ではない。出した事実だけを示す番号が、今は少し腹立たしかった。
なくなれば、出さなかったことにできるのに。
ソウマはノートを開く。
最初に書いた。
くやしい。
ひらがなで、子どもみたいだった。でも、それ以上正確な言葉がなかった。
次に書く。
雨の日に落ちるな。
ミラが小さく吹き出した。
コトハも泣きそうな顔で笑い、ソウマも笑ってしまった。
前向きになったわけではない。悔しさの隣へ、少し変な一文が増えただけだ。
4 今日は分析しない
アキトが聞いた。
「原稿を見るか」
ソウマは首を横に振った。
「今日は見ない。原因も考えない」
「分かった」
ミラは称賛レポートの封筒を出しかけ、戻した。
その日ではない。
ソウマは受付番号を剥がさなかった。「くやしい。」のページも破らない。
ノートを閉じる。
落選通知は、新しい物語の種にならなくていい。今夜はまだ、痛い結果として机に置かれているだけでよかった。
雨は、帰るころにも降っていた。
5 濡れた封筒
帰り道、ソウマは落選通知の印刷を鞄から落とした。
紙はすぐ雨を吸い、インクが端からにじむ。慌てて拾い、軒下へ駆け込んだ。
「物語みたいだな」
言ってから、自分で嫌になる。何でも創作へ回収する癖が、痛みまで材料に変えようとしている。
ソウマは紙を丸めず、ハンカチで挟んだ。使える比喩も、次作の場面もメモしない。
家で乾かすと、「選外」の二文字だけははっきり残った。受付番号の半分は読めない。それでもメールに記録があるため、困らない。
通知の紙は、作品へ使う資料箱ではなく、机の平らな場所に置いた。
翌朝になっても、雨の場面は書かなかった。
経験を物語にできる力と、今は物語にしないと決める力は、同じ書き手の中にあってよかった。
乾いた通知は波打ち、元の平らな紙には戻らなかった。ソウマは重い本で伸ばさず、そのまま封筒へ入れる。
結果を受け取った日の形まで整える必要はない。にじみを美しい傷跡と呼ぶ必要もない。ただ、捨てるか残すかを今日決めないための封筒だった。
封筒の日付だけは、落選通知を開いた日のままにした。物語へ変えない一日にも、日付はあった。
雨音だけが残った。
この話で起きたこと
ソウマは「いい経験」とまとめず、席を離れ、戻って「くやしい」と書きました。分析・再起・新作は翌日以降へ送り、今日は感情を隠さないところで終えています。
創作に戻すなら
大きな失敗の直後、すぐ意味や学びへ変えない結末も選べます。人物が言い直す、席を離す、泣かない、ノートを閉じるなど、その日できる一動作だけ置きます。
一行ワーク
結果を前向きにせず、今の感情を最も短い言葉で書いてください。
この話とつながるガイド
この話から持ち帰る問い
今はまだ、意味に変えなくてよい感情は何ですか。
この話を読み終えた
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